本当に不買運動しか残ってないのか、大雑把な戦略を立ててみた
私的録音録画小委員会:「ダウンロード違法化」不可避にと「ダウンロード違法化」がほぼ確定,録音録画に加えソフトウエアも対象に,私的録音録画小委員会で文化庁が方針を示すによると、違法サイトからのコンテンツダウンロード違法化はほぼ決定したようです。
また,コンピュータ・ソフトに関しても録音や録画と同様に,違法な複製物や違法サイトからの複製を適用範囲から外す方針も同時に示された。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071218/144359/
まぁ、こういう流れになるかもなとは思ってはいました*1が、いざ現実になるとどうしようもない無力感を感じます。とはいえ、ある程度想定内の流れであるわけで、次の戦略を練るべきでしょう。論点をまとめてみましょう。
- 違法サイトからのダウンロード違法化が成立したとして、その運用に関する提言はできないか
- もっと根本的に異なるモデルはないか?
まず、「(1) 違法サイトからのダウンロード違法化が成立したとして、その運用に関する提言はできないか」についてですが、私は非常に危機感を覚えています。
本日の審議でも,日本レコード協会専務理事の生野秀年氏や日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏から「レコード会社のビジネスはもはや立ち行かない状況。背筋が寒くなる」,「動画共有サイトに映画コンテンツがアップされると拍手喝采。まるでネズミ小僧を称える民衆のようだが,映画製作者は善良なクリエータで悪代官でも悪徳商人でもない」といった強い賛成意見が出た。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071218/144359/
P2P の話だと思っていたら、矛先は動画共有サイトにも向いたようです。ニコニコ動画もうかうかしていられませんね。JASRAC との提携が決まったとはいえ、映像コンテンツの解決には、程遠い状況ですから。
プロバイダ責任法があるので、これと矛盾しない限り現行のやり方でもニコニコ動画も Youtube も成り立つとは思いますが、権利者がどのような思いでネットを見ているのかよくわかります。違法サイトの認定方法によっては、大変な変化があるかもしれません。
川瀬氏は,反対意見のほとんどが「知らないうちに法に抵触する」ことへの不安感に基づいているとして,利用者保護に十分配慮するとした。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071218/144359/
不安感だけではありません。コンテンツに魅力がないことが問題なのです。ここでいう魅力とは、内容の良しあしだけではなくて、そのコンテンツの肴にしやすさ・・・コンテンツのサカナビリティとでも呼びましょう・・・サカナビリティが足りていないのです。
- アクセスのしやすさ:ブラウザを開いただけでコンテンツにアクセスできるし、検索もできる
- 場のできやすさ:ブラウザを開いただけで、コンテンツを語り合う場がある
- ネタの増幅:ブレインストーミングばりにコンテンツを組み合わせてネタを増幅できる
ニコニコ動画やネットによって、コンテンツのサカナビリティがかなり上昇しました。ニコニコ動画のプレミアム会員の増加ペースを考えても、コンテンツにお金を使う人の財布を考えても、ユーザーはお金を払う気はかなりあります。(私の場合は年間数十万円をコンテンツに使っています。)
権利者は「サカナビリティは維持するから、お金を集める方法を考えよう」というのかと思いきや、「このサカナビリティは怪しからんから、やめてしまえ!」といいだしたわけです。せっかく財布のひもを緩めていたのになんてこったい。
もう、不買運動しか残っていない・・・と思いたくもなりますが、そうなると本当にどうしようもなくなるので、前に進むための戦略を考えていきましょう。
もうひとつ、「(2) もっと根本的に異なるモデルはないか?」について話します。ソフトウェアの世界も非常にがんじがらめな世界です。MS 製品に限らずたいていのソフトウェアはプロテクトを掛けています。マシン一台あたりいくら・・・というようなモデルを考えると、私的録音録画なんて概念はそもそも存在していません。コンテンツの世界もソフトウェアと同様強力なプロテクトをかけて、コピーあたりで販売したいということでしょう。
さて、がんじがらめで生き難い世の中ですが、それを崩す方法はないのでしょうか。これもまた、歴史が証明するとおり対策が存在します。ソフトウェアの世界には、「フリーソフトウェア*2」という考え方があります。「実行する自由」「改良する自由」「配布する自由」「改良を公開する自由」を備えた自由なソフトを「フリーソフトウェア」と呼びます。(オープンソースという言葉の方が有名ですが、オープンソースは必ずしもこの 4 つの自由を備えているとは限りません。)
ソフトウェアの世界では、競争力を持った「フリーソフトウェア」が増えたことによって、徐々にプロテクトのかかった製品を回避できるようになってきました。そうなると、プロテクトがかかっていた製品も徐々にフリーソフトウェアに近い世界に移住しはじめます。ソフトウェアの世界では、コンテンツの世界と比較すると比較にならないほど「自由」です。
ソフトウェアが無料になったら、IT エンジニアは職を失うのでしょうか? 実際にはそんなことはありません。確かに、「特定の仕事に拘泥すると職を失う危険性がある」ことは事実ですが、見てのとおり世の中は IT に関する需要の増加で、むしろ仕事であふれかえっています。これは、活用する基盤としてのフリーソフトウェアが整備されたため、応用するために人手が爆発的に必要になったからです。(もっとも、IT エンジニアの収入は平均的にはあまりよくないのですが、稼げていないのはどちらかというと商売が下手だからでしょう。)
コンテンツの世界にもこうした戦略が有効でしょう。ただし、ソフトウェアの世界では「半完成品」をフリーソフトウェアに、「完成品やサービス」でお金をもらうという仕組みになっています。なんでもフリーにしたら、成り立ちません。コンテンツはある意味すべてが半完成品でありすべてが完成品であります。ソフトウェアと異なり、「本当に全く稼げなく危険性」もあります。
求められているのは、フリーソフトウェアの精神ではありますが、無料の基盤ではありません。ある一定のお金を払ったら自由を享受できるというような使い勝手のいいライセンスでしょう。ユーザーとしてできるのは、そうしたやり方を推進するクリエイターを支援していくことです。(クリエイティブコモンズライセンス(CCL)は実用的には優れたライセンスですが、「フリーソフトウェア」のような強くて明確なメッセージ性を持ったライセンスが必要かもしれません。)
最後に一言。
とりあえず買ったけど聴いてないCD数百枚あるし、当分CD買うのやめるわ。
http://twitter.com/tsuda/statuses/510151062
最初から結論決まってるんだったらこの2年間のムダな時間を返して欲しいと本気で思う。どれだけこれに時間とコスト払わされたんだっていう。
http://twitter.com/tsuda/statuses/510180292
津田さんお疲れさまでした。無駄な時間などではなかったと思います。多くの人が、著作権、コンテンツの楽しみ方、クリエイターのあり方を考える機会を得ることができました。ありがとうございました。m(_~_)m