クリエーターに必要なのは思いやりじゃなくてお金と評価でしょう?
著作権法改正巡る2つの対立・「思いやり」欠如が招く相互不信を読みました。記事の総意として、「早く何とかしないとコンテンツ産業に取り返しのつかないダメージを与えてしまう」という主張には賛成します。ただ、それが「JEITA と MiAU およびネットユーザは自重せよ」という論調であれば、この記事はあまりに不適切な議論を展開しており、賛成することはできません。
それにも関わらず、JEITAやMIAUは制度変更に対する反対や批判ばかりで、建設的な対案は何ら示していない。これでは、小泉構造改革に反対した抵抗勢力や、テレビに出演している出来の悪い評論家と同じである。
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT12000026112007
私はとても気に入らないのですが、JEITA の態度は一貫していると考えていて、なぜ一貫しているのかというと、技術的な解決(保護技術)を提案し続けているからです。MiAU は、結成されてから一カ月強、総意として指向性のある意見を強く打ち出すこと自体、まだ無理というのが実情ではないでしょうか。それでも、MiAU の総意になっているかどうかはともかく、MiAU の中の人は二階建て制度*1のような提案を示していますし、今も様々な案件について議論中のようです。MiAU のよいところは、落とし所をちゃんと探そうとする姿勢もあることです。JEITA、MiAU いずれも対案なしとは言えないでしょう。
あと、MiAU に恨みでもあるのでしょうか。
これに対して、ネット上での自由に重きを置く人々が強硬な反論を展開している。その典型が「インターネット先進ユーザーの会(MIAU)」である。その主張を一言で要約すれば「違法コンテンツのダウンロードまでも違法行為とするのはユーザーによるネット利用の自由を制約することになるので反対」となるであろう。
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT12000026112007
この要約がミスリードを誘っています。これほど複雑な問題を一言で説明しようという態度そのものが問題がありますが、それでも敢えて MiAU の主張を要約すれば「悪法は制定すべきではない」というくらい広い範囲を含んだ主張になります。自由という視点ももちろんありますが、副作用の多い法律改正に一番反対しているのです。そもそも、法律違反者を何万人も何百万人も増やすような法律改正は、その改正内容そのものに欠陥がないのか十分に考える必要があります。著作権法のような利害を調整するための法律であればなおさらです。
デジタルとネットの普及でクリエーターは所得機会の損失という深刻な被害を受けている。MIAUは「一億総クリエーター」という政府の標語を引いているが、プロとアマチュアのコンテンツは分けて考えるべきである。放送局やレコード会社などを含むプロのクリエーターは、作品から収入を得ているのであり、その収入が激減するのを放置したらどうなるだろうか。ネット上でのプロのコンテンツの流通が増えるどころか、プロの道を志す人が減り、日本の文化の水準が下がる危険性もあるのではないか。
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT12000026112007
まず、現行の法律を適切に運用した場合、「プロの収入が激減する根拠」を示さなくてはなりません。権利者が、現行の法律をしっかりと運用していないことは事実です。それが、所得機会の損失になっているかどうか、現行法律の運用を適切に行った場合この問題は解決できるのかどうか、この二点を十分に議論せずに法律を変更しようとする姿勢にうんざりしています。
次に、プロとアマチュアを分けること自体ナンセンスです。面白いものであれば、プロアマを問わずいいコンテンツです。ユーザーの視点に立てば、プロアマ問わずお金を払いたいもの*2です。
あと、全体的に権利者とクリエーターを混同している気がするのは気のせいでしょうか?
かつてハリウッドの高名な人が「コンテンツが王様で、流通は女王である」という名言を吐いたが、デジタル時代は「プロのコンテンツが王様」なのである。その王様を突き上げていれば改革が成就するなどと考えるべきではない。
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT12000026112007
この認識が一番ずれています。「いかなるコンテンツもユーザーが楽しめるのなら王様」なんです。ニコニコ動画を見る限り、その良いコンテンツは、プロアマを問わず生まれてきます。著作権の強化を一度してしまうと、権利を弱めることは非常に難しくなります。ネット上のコピーに関する問題は、実は現行の法律を適切に運用すれば解決する問題*3ですから、現行法律を適切に運用しながら、コンテンツの楽しみ方とは何か、何に価値を見出すのかを考えつつ、一番大切な「良質なコンテンツを提供するクリエーターにどうやってお金を届けるのか」を議論すべきでしょう。
クリエーターにはお金と評価を。思いやりは、普通の人に向ける程度で十分。