平凡なエンジニアの独り言 はてなブログ出張所

ピアノをこよなく愛するエセRubyistが適当に書き綴ります

ユーザーと対話する姿勢を見せているのはいいことだけど懸念材料もある

角川グループの会長が著作権について触れているようです。ユーザーとの対話の必要性を重視する姿勢から、好感のもてる記事です。ただし、著作権に関する考え方は、私の意見とは異なります。私の考え方は以下のとおりです。

  1. お金を薄く広く取るという考え方は賛成
  2. 著作権の完全管理には強い懸念

まず、「(1) お金を薄く広く取るという考え方は賛成」についてです。

角川会長は「超流通」推進者ということで、超流通については、「やり方次第では」という条件付きで私も賛成です。超流通とは、利用者の利便性を確保しつつ、権利者の利益を保護するための仕組みです。(1) コンテンツの入手にはお金がかからない、(2) コンテンツの利用条件を権利者が設定できる、(3) 許可しない改変は行えない、(4) 流通に手間がかからない、という特徴があります。(2) については、一般に利用回数に応じて課金という考え方が多いようです。

角川会長はどのような超流通を目指しているのかはわかりませんが、「閲覧権」と「著作権法の非親告罪化」と合わせ技にすることで結構危険な香りを感じます。角川会長はそうしたものを目指さないと思いますが、権利者はほかにもいるわけですから。

定額式超流通という考え方もあります。永井俊哉氏が、提唱しています。非常に優れた論文なので、ぜひ閲覧して欲しいのですが、以下にポイントだけ抜き出しておきます。私は定額式超流通をもっと実情に合わせて修正するのが一番いいと考えています。

  • コンテンツの複製、編集、頒布は自由
  • お金の集め方
    • 通信料金、デジタル複製機器(PC 含む)に著作物利用料金を定率で課す*1
    • 広告
  • 集めたお金の配分方法
    • 著作の複製回数やアクセス数などに応じてお金の配分を決定する
    • 著作物に複数の権利者がいる場合は、権利者間でお金の配分率を決めておき、それに応じて配分する(音楽であれば時間の長さなどから、機械的に決められるようにする)
  • 集配金は著作権管理機構を設置する(国際組織を推奨)

上記論文は古い(2000 年くらい)ため、集金手段が少なかったり、お金の配分方法が洗練されていなかったり、そもそも実現性に難を抱えていたりという問題はあります*2。それでも、目指す方向性は賛同できます。

やり方を実情に沿って落としこむとすれば、ニコニコ動画みたいなサービス提供者がお金を定額で集めて、閲覧数や閲覧時間に応じてお金を権利者に払う仕組みを作るという感じだと思います。

超流通で賛同できない点がるとすれば、保護技術と同じで、管理強化の方向に向かわざるを得ないことです。つまり、「(2) 著作権の完全管理には強い懸念」を持っているわけです。

 これを前提に角川会長は、著作権法に「3次利用権」として「閲覧権」という新たな権利を設定するよう提案する。ネット上でコンテンツをダウンロードしたりストリーミングで閲覧する行為についての権利を設定しよう――という考え方だ。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0712/07/news012_2.html

角川会長は技術革新によって著作権を完全管理していくという考え方のようです。私の抱く懸念は以下のとおりです。

  • 著作権の完全管理は(ユーザーにとって)悪用されないか?
  • ニコニコでコメントをつけるような行為、MAD などは許されるのか?
  • 公衆送信権を侵害されている現状で、閲覧権はそれほど有効なのか?

良くも悪くも Youtubeニコニコ動画のようなところは、ルールを厳密に適用しないからこそ存在し得ているところがあります。完全管理ということは、そういう「隙間」を技術的に埋めてしまうことになり、次の世代の芽を摘んでしまわないだろうか、と心配です。

 コンテンツを完全に管理する仕組みは、国民の知る権利や表現の自由を侵害し、言論統制につながるのでは――という指摘が、会場の白田秀彰・法政大学准教授からあった。角川会長は「例えば(登録楽曲の利用料を広く薄く徴収する)JASRACはユーザーの利便性を損ねただろうか。今の問題は、払う人からはたくさんお金を取り、払わない人は見過ごしているという偏ったお金の取り方だ」と答える。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0712/07/news012_2.html

薄く広くお金を取るために、「完全管理」ということをする必要があるかどうかもう少し考えてみる必要があると思います。JASRAC は完全管理からは程遠い世界ですし、ユーザーの利便性を上げている面もあれば下げている面もあるわけですから。(関連記事

なんにせよ、前向きな講演だったようなので、もっとブラッシュアップした話が聞きたいですね。

追記(2007/12/8 17:56)

id:banraidou さんのエントリを読むと、やばさが伝わってきます。これは、懸念どころではなさそうです。また、ネット配信で「広く薄くあまねく」徴収する“閲覧権”創設をの記事の方が、角川会長の発言の趣旨が分かりやすいです。

これらの記事を読むと、岡田有花さんの記事は印象操作が入っているというか、角川会長の話術に騙されたのか、ちょっと微妙だなぁ・・・。記事を読んだ時に言いようのない不快感はあったのですが・・・。

*1:私的録音録画補償金に近いですね

*2:あらさがしをすればきりがないほど。超流通全般に言えることですが、機械的に物事を定めようとしすぎる点には、違和感も覚えます。